えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
「うっ、うるさいわね!? お兄様には関係ないでしょっ」
「いやいや、めちゃくちゃ関係あるだろ。というか、呼んでくれと言われたとしてもせめて様付けだろ」
「あっ」

 呆れたと言わんばかりのその表情に私もじわりと冷や汗が滲む。
 確かに、愛称で呼ぶ許可は貰ったが呼び捨てで呼ぶ許可は貰っていなかったことに今更気付いた。

「ふ、不敬罪になるかしら? 今からでもやっぱり殿下呼びに……」
「いや待て。呼び捨てからまた呼び方を戻したら余計なことを、と俺にだけ被害が来るかもしれん」
「え、お兄様にだけ?」

 何故そんな結論になったのかはわからないが、究極の二択でも迫られているかのように表情を険しくさせた兄が諦めたかのようにまた大きすぎるため息を吐く。

「……お前はそのままで、何も考えず呼んでいろ……」
「え? ちょ……っ、なんなのよ」
「どうせルチアは逃げられない。そして俺も逃げられない……」

“お兄様、変なものでも食べたのかしら”

 意味がわからない言葉を呟きつつくるりと背を向け自室へと帰って行く兄を、私はただ呆然としながら見つめていたのだった。
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