えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
“こんなに熱したら味とか風味が飛んじゃうんじゃないかしら”

 紅茶には茶葉ごとに淹れる温度の適正がある。
 もちろん熱湯で淹れる茶葉もあるが、大体は蒸らしている間に多少は冷めるもの。
 それなのにこの紅茶は沸騰させ続けながら淹れたようで、その温度を保ったまま出された。

 その熱々の紅茶が入ったティーカップをいち早く手に取ったのはもちろんフラージラ様だ。
 そして優雅な所作でこくりと一口。

「えぇ、今日も素晴らしい熱さだわ。……あら? どうしたのかしら、お飲みになられないの?」

 ふふ、と妖艶に笑う彼女に内心苛立つ。

“加護自慢ね”

 火の加護を強く授かった彼女は、加護のない私とは違いこの程度の温度では火傷などしない。

 つまりこの熱々の紅茶は、加護のない私を当て擦っているということなのだ。
『加護のない貴女ではジラルド様の婚約者に相応しくなどない』と、いうことなのだろう。
 
 あまりにも幼稚で低レベルだが、確かに効果は抜群だった。
 ――私が本物の婚約者なら、だが。

“残念ね、私は肉壁なのよ! この程度で負ける訳にはいかないわ!”
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