えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 本気にして傷つくことは目に見えている。

「へ、部屋の中はダメなんですっ」
「どうして? 僕たちは婚約者同士だよ」
「でもそれは仮初っていうか」
「何事も練習が大事だと言わなかった?」

“た、確かに言われたわ!?”

 思わず納得しかけた私に、一歩近づいたジルが畳み掛けるように言葉を重ねる。

「婚約者の練習が出来るのは世界にルチアだけだよ」
「世界に私だけ?」
「だってそうだろ? 僕の愛する婚約者は君だけなんだから」
「そう……なの、かしら」
「愛するはスルーか……。まぁいい、とりあえず僕はルチアの私室、いや寝室に入る権利がある」
「なるほど、理解いたしました。どうぞ!」
「わぁ……」

 ジルの説明に確かにその通りだと思った私が部屋の扉を開けて中へと促すと、一瞬ジルの表情が驚愕に染まった気がしたが、きっとそれは気のせいだろう。
 
 部屋に入り、侍女がいないので自分でアクセサリーを外そうとしていると、気付けば背後に回っていたジルがそっと留め具を外してくれた。

「あ、ありがとうございます」
「いや、使ってくれていて嬉しいよ」
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