えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 だからこそ、ジルの手を借りて逃げるのではなく、正々堂々と自分の足で立ち向かいたいと思ったのだ。

「もちろんジルの婚約者の座を譲る気なんてありませんから、任せてください!」
「うっ、今ルチアにときめきすぎて心臓止まりそう。可愛すぎる」

 わざとらしく胸を押さえて苦しそうな仕草でおどけてみせる彼に小さく吹き出した私は、こうやって励ましてくれていることに心から感謝した。

“優しいんだから”

 溢れる笑いを止めることなくクスクスと溢れさせていると、そんな私をじっと見たジルが小さくコホンと咳払いをする。

「……そろそろ着替えなくちゃいけないよね。疲れているのにごめんね?」
「あ、全然、むしろ嬉しかったので」

 これは本音だ。
 確かに気疲れはしたし、プレッシャーで疲れて帰って来たのは確かだったが、それでも好きな人が出迎えて労ってくれたとあればむしろ疲れは吹き飛ぶというものである。

「そう言ってくれたなら良かった。じゃあ今日は少し早いけどこれでお暇するよ。実はお茶会が気になってこっそり執務を抜けてきたんだ」
「えっ! じゃあジルは今からまたお仕事に……?」
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