えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 私が彼の頬に口付ける寸前、彼がくるりと顔をこちらに向けて唇同士が触れ合ったのだ。

「こ、こんな、これじゃおやすみのキスじゃなくてただの口付けですッ!」
「それは違うよ。頬にするだけがおやすみのキスじゃない。あともう一回したいしして欲しい」
「な、ななっ」
「練習」
「……!」

“練習なら仕方ないわね”

 確かにおやすみのキスを唇にしてはいけないと決まっている訳ではないし、ジルの言うことにも一理ある。

 なるほど、と納得した私は、にこにことしているジルへと目を伏せてもう一度おやすみのキスを贈ったのだった。



「買い物に行く日は必ず僕に教えるんだよ」
「わかったってば! もう、過保護なんだから」

 繰り返し何度もそう念押しするジルに苦笑しつつ、彼を見送るため一緒に部屋を出ようと扉を開けると、何故かそこに険しい顔をした兄がいた。

「ちょ、私の部屋の前で何してるのよ!?」
「いや、いかがわしい声……ンンッ、異変があればすぐに突入しようかと様子を伺っていた」
「私の部屋に何者かが侵入する可能性があるってこと?」
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