えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 フラージラ様が入店したことに気付きすぐに店長らしき女性が対応してくれた……までは良かったのだが、本来の目的を忘れていつもの茶葉を買おうとするフラージラ様を慌てて止めた私は、疲労が顔に出ないよう必死に取り繕った。

 
“というか、そもそも熱湯でも美味しく飲める紅茶なんてあるのかしら”

 熱湯で淹れる紅茶は多いが、熱湯状態を維持して飲む必要なんてそもそもないだろう。
 だからこそフラージラ様が求めているものの意味がわからなかったらしく、店主が困ったようにこちらへと視線を向けた。

 私はフラージラ様の侍女でもフォロー係でもないんです……! なんて内心思いつつ、困っている店主を無視することも出来なかった私はおずおずと一歩前へ出る。

「火の加護を活かせるような、そういう用途の紅茶って……」
「あ、火の加護を」

 私の言葉で察してくれたらしく、納得したような表情になった店主だが、その表情をすぐに曇らせる。
 ある意味当たり前ではあるのだが、どうやらそう言った特殊な紅茶は置いていなかったらしい。

「大変申し訳ありません、現在ご希望に合う茶葉のご用意が出来ません」
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