えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 ごくりと唾を呑んだ私が、なるべく冷静に見ていることを悟られないよう気をつけながら見たその先には、何かを決意したかのような深刻そうな顔をしたフラージラ様がいた。

“もしかしてこれ、罠なの?”

 わざわざ家まで迎えに来たのも、ここに彼女の侍女がいないことも。
 なるべく目撃者を減らし、彼女にとって邪魔である恋敵(ルチア)を消すための策略なのだとしたら――


 じわりと額に汗が滲む。
 思わず体に力が入り、互いに買って交換したピアスを入れた袋がガサリと音を立てた。

 そしてそのガサリという音は私だけではなく、どうやらフラージラ様のところからも聞こえる。

“彼女も緊張しているのね”

 荒くなりそうな呼吸を必死で押さえつけ、警戒を悟られないよう、だがいつでも動けるように少しだけ腰を浮かした、その時。


「このピアス、その、着けてみてもいいかしら?」
「…………、はい?」
「べ、別に他にも素敵なピアスは沢山持っておりますがッ、その、折角買ったのに使わないなんてもったいないじゃない!?」
「は、はぁ」
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