えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
“もしかして気を紛らわそうとしてくれているのかしら”

 そんな彼女の気持ちが嬉しく、私はただ黙って耳を傾ける。

「いくらこの私といえど、やっぱり緊張はしてしまうもの。そこへジラルド様が颯爽と現れ、ダンスに誘ってくださったのよ。……まぁ、それが王太子である彼の仕事だとわかっているけれど」

 有力貴族の令嬢のデビュタントでダンスに誘う。
 それはたった一度の邂逅であり、媚びであり、慈悲だ。

 王太子である彼はどの貴族とも平等に親しくする必要があり、その顔繋ぎも兼ねてのダンスはまさしくジルの仕事のひとつ。

「……私、足を踏んでしまったの」
「ララがですか?」

 何でもこなすララからはイメージが出来ず、思わずそう聞き返すと、小さく彼女が頷いた。

「沢山練習だってしたし、得意のつもりだったわ。でも、いざ本物の王子様に手を引かれてホールに出たら頭が真っ白になってしまったの」

 練習の成果が必ず本番に出るとは限らない。
 デビュタントだったということは、きっと人前で踊ることも初めてだったのだろう。
 それに彼女は公爵令嬢。普通の令嬢よりもプレッシャーだって大きかったはずだ。
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