えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
「踏んでしまったことに焦って、次の足も出なかった。完全にど真ん中で立ち尽くしてしまったわ。失態よ」

 話しながら彼女の表情が少しだけ血色を帯びる。
 落ち着いた彼女の声色に、さっきまで恐怖と不安ばかりだった私も少しだけ心に余裕が出来た。

「でも、動けなくなってしまった私にジラルド様は怒ることも呆れることもせず笑ってくださったわ。そしてリードと呼ぶには少し強引な強さで手を引いて大きくターンされたの。ダンスのリズムも形式も無茶苦茶だった」

 きっとそれはとても楽しい記憶なのだろう。
 ララが自然にクスリと笑みを溢れさせる。

「その後はどうだったんですか?」
「ふふ、もちろんお父様には怒られたわ。けど、その時ジラルド様がやってきて『僕が躍りたいように踊ったせいで彼女を振り回してすまない』と謝りに来てくださったの」
「え!」
「簡単に頭を下げてはいけないはずなのに、こんなことで頭を下げられて……お父様も唖然とされてたわ」

 王族というのは基本的に頭を下げるべきではないとされる。
< 81 / 262 >

この作品をシェア

pagetop