えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
 そんな彼に私はいつも感謝し、そしてそんな彼のお陰で私は私を嫌わずにいられた。

「だから私は、ジルをただの“ジラルド”にしてあげたいと思っています」

 王族だとか、王太子だとか、神の愛し子だとか。
 彼に付随するすべての肩書をとっぱらったその先の、彼という個を見て大事にしたい。
 好きでいたいのだ。

“ジル本人を見ているってところはララと同じね”

 私が最初から彼女を嫌いになれなかったのは、彼女のこういう部分もあったからなのかもしれないとそう思った。


 きっと私たちは敵で、ライバルで、同じなのだ。


「負けませんわよ」
「私だって」

 ふふ、と笑いあった私たちは、だが同時に今がピンチなのだということに表情を引き締める。

「とりあえずこの状況をなんとかしなくちゃいけないですね」
「えぇ。動いている馬車から飛び降りる……のはやめた方がいいわね」
「そうですね。飛び降りて足を怪我でもしたら、今度こそ本当に逃げられなくなっちゃいますし」

 馬車はずっと走りっぱなしだ。
 あまり遠くに行かれれば私たちでは戻ることが出来なくなってしまう。
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