えぇっ、殿下、本気だったんですか!?~落ちこぼ令嬢は王太子の溺愛を肉壁だと思い込んでいる~
「どうかなされましたか?」
「ついてこい、嫌な予感がする」
「はっ!」

 少し焦ったような顔をしている彼に詳しく説明はしなかったが、僕の様子を見てただ事ではないと感じたのだろう。
 いつもの兄の顔ではなく臣下の表情になり、すぐ一歩後ろに立ち歩きだした。

「僕に謁見だ、コルティ公爵令嬢から」
「コルティ公爵令嬢?」

 歩きながらそう告げると、エミディオからも怪訝な声が漏れる。
 
 ルチアと一緒にいるはずの彼女が何故謁見を申し込んでいる?
 もうルチアとは解散し、そしてルチアの悪口でも僕に伝えようと悪巧みしているのか?

 もしそうならば、無駄なことを。
 彼女の純粋さは誰よりも僕が知っている。

 ――だがもしそうじゃないのなら……

 そんな僕の緊張がエミディオにも伝わったのだろう。
 彼は何も言わなかったものの、空気が張り詰めたのを感じた。


「謁見を希望していると聞いたが」

 メイドが開けた扉からエミディオと共に入ると、すぐに一人の令嬢が立ち上がり頭を下げる。
 そこには予想していた真っ赤な髪ではなく、平凡な茶色の髪がさらりと揺れていた。
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