不良の理央くんはあたしの全部が好きすぎる
第一話「熱烈なファンは不良くん!?」
◆第一話「熱烈なファンは不良くん!?」


◯楽屋(仕事終わり)

ミナミの容姿:茶髪で肩までのセミロング。目は少しつり目

イスに座って休憩しているミナミの元へマネージャーが後ろから近寄ってきた。

マネージャー「ミナミ、お疲れ。はい、水」

マネージャーから水を受け取り、さっきまで触っていたスマホに視線を戻すミナミ。
画面にはミナミへの誹謗中傷ばかりが映っていた。

マネージャー「SNSは見ないって約束したでしょ」
ミナミ「今回の役も評判最悪ですね」
マネージャー「仕方ないよ。ミナミの役は悪役なんだから」

マネージャーはミナミの手からスマホを奪う。
代わりに持っていた手紙を差し出した。
ミナミはマネージャーから手紙を受け取る。

マネージャー「また、あの子じゃない?」
ミナミ「毎月送ってくれますね……理央くん」
マネージャー「嫌われてるばっかりでもないでしょ?」

ミナミは涙ぐみながら手紙を大切に胸に抱いた。



◯家・自分の部屋(朝)

学校のセーラー服に着替える。
黒髪のウィッグを茶色のセミロングの髪の上から被る。
机に置いてある分厚い眼鏡を掛け、変装をする南。女優のミナミから女子高生の南の姿に切り替わる。

南(……よし、今日も変装は完璧!)



○学校・校門

同じクラスの女子二人が南の目の前を歩いていた。

南「お……」
後ろから声を掛けようとしたがやめる。
高校に入学して一ヶ月。喋れる子はまだいない。

南(今日もダメそう)
同じクラスの女子二名の後ろを気配を隠しながら歩く。

???「……うっす」
南の背後から男の声が聞こえた。

男の容姿:シルバーの髪色で耳にピアスを二、三個つけている。目鼻立ちもハッキリしており顔はとても整っている。

見知らぬ男子生徒が声を掛けてきたことに驚く南。
後ろ姿を眺めながら唖然とする。

クラスメイト女A「あれって不良で有名な伊達くんでしょ」
クラスメイト女B「髪色とピアスえぐー。確か隣のクラスだっけ?」
クラスメイト女A「そうそう。中学のとき凄く荒れてたみたいで校内の窓ガラス割って歩いてたらしいよ!?」
クラスメイト女B「高校入学してから一回も来てなかったんでしょ? 辞めたんじゃなかったの?」

銀髪ピアスの男子が伊達くんという名だと知る。


◯昼休み・校舎裏

青いベンチに座りお弁当を広げる南。
視線はお弁当に向いたまま卵焼きを食べる。

???「弁当、ここで食ってんだ?」
顔を上げると伊達。手には食材パンとジュースを持っていた。
南「あっ、朝、挨拶してくれてありがとう……」
お礼を言うと、伊達は南の隣に座った。
南「恥ずかしい話、私友達いなくて」
伊達「へぇ、女優してんのに?」

南は学校の教師以外には女優をしていることは隠していた。
ウィッグとメガネで絶対バレない見た目だ。

伊達が言い当てたことでご飯を食べていた箸を止めた。

南「な…なに、言って……」

動揺を隠しきれていない南。
伊達は南のメガネを外す。

伊達「アンタ俳優のミナミでしょ」
南「えっ!?な、なんで!?」
伊達「オレ、ファンなんだよね。ミナミの」

否定するように首を横にブンブン振る南。

南(私のファンなんていない。いるわけない)
(SNSで私を好きだと言う人は見たことないし、ファンレターも理央くんだけなのに……)
顔を伏せる南。か細い声で伊達に言う。
南「私のファンなんていないよ……」


○放課後・教室

学生鞄に教科書類を詰める南。
教室に伊達が入ってきて、南の元へ来た。
他の生徒は伊達を見て怯えている。

伊達「ちょっとついて来い」
南の腕を引っ張り教室から出る伊達。
南(恥ずかしい、他の生徒からジロジロ見られてる……)

この瞬間だけはまるで自分がヒロインにでもなったような感覚に陥る南。
伊達の後ろ姿を見ながら質問する。

南「あの……どこへ」
伊達「俺ん家」
南「えっ!? 伊達くんの家?」
伊達「あれ、俺の名前知ってんだ?」
南「今日、校門で他の子達が伊達くんって呼んでたから……」

南の方へ視線を向ける伊達。
伊達「理央だよ。伊達理央」
南「理央……くん……」

南(理央って名前どこかで……)
毎月マネージャーから受け取るファンレターのことを思い出す南。
南(理央くんってまさか……!?いや、でもたまたまかもしれないし……)
顔が赤くなる南。理央の家に着くまで心臓がドキドキと脈を打っていた。


◯夕方・理央の家

理央の家はタワマンの最上階。
大理石の玄関がミナミの目の前に広がる。

南(すごいお家に来てしまった……)

理央の後に学校の指定靴を脱ぎ、玄関に並べる。
理央からこっちと指さされ、後ろをついていく。階段を上がり、着いた部屋は一番奥の部屋。広さは十畳ほど。壁にはミナミのポスターが一面貼られていて、本棚にはミナミの記事がある雑誌がズラリと並んでいた。
ミナミのグッズも並べてある。

テレビの下のラックにはこれまでミナミが出演したDVDBOXが並べてある。横にもミナミが出演したバラエティーテレビの録画と思われるDVDがズラリ。

南「本当にファンだったんだ……」

スマホを片手にミナミに近づく理央。
ファンクラブの会員の画面をミナミに見せる。
理央「ファンクラブにも入ってる」

南「ありがとう……あの、なんで恰好も全然違うのに私がミナミだって分かったの?」
理央「喧嘩で疲れて倒れ込んでた時にアンタを見たから。公衆トイレに入って行って、ミナミの姿して出てきた。あの時はマジで疲れ吹っ飛んだよ」
南(そうだったんだ……私もウッカリしてた。
(もしかして誰かに話したりしたのかな……)

不安な表情を見せる南の顔を覗き込むように見る理央。
理央「安心しろ、アンタがミナミってことは誰にも話してないから」
ホッした表情を見せる南に理央は手紙を渡す。
理央「せっかくだから、今月の分」
理央から手紙を受け取る南。見慣れた封筒だった。

南(まさか、理央くんって……)
南「毎月手紙をくれてる理央くん?」
理央「そうだよ。受け取ってくれてよかった」

ビックリして顔を赤くする南。

南(まさか、理央くんがあの手紙をくれてる理央くんだったなんて……)

理央の部屋にあるソファーに腰かけ、今の心情を打ち明ける南。

南「最初はお母さんに楽させたくて頑張ってたんだけど、もうキツくて……」
黙って南の話を聞く理央。
理央「――うん」

南「本当はね、友達も欲しかったし、普通に学校生活を送りたかったんだ」
理央「友達、できなかった?」
南「……うん。役が役だったから……いたけど離れちゃう子もいて……」

理央「南がツライなら芸能界、やめてもいいと思うけど」

南(ビックリして理央の方に顔を上げる)
南「……え!?なんで……理央くんって私の……ミナミのファンなんじゃないの……?」
理央「ミナミには幸せでいてほしい。それが俺の……ファンの願いだよ」

南に笑顔を見せる理央。嬉しくて涙ぐむ南。
南「……うん」
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