不良の理央くんはあたしの全部が好きすぎる
第三話
◆第三話「」

ドキドキと高鳴る鼓動。すぐ側には理央の整った顔面。触れる頬。良い匂い。
南(このままじゃ、どうにかなってしまう…!)
南の脳裏には、さっきまで理央といた派手な女が頭を過った。

無理矢理理央の胸を退かし離れる南。

南「理央くんは私と友達になってくれるって言ったけど……その、恋人とか作っていいから。さっきの女の子、可愛かったし……」
理央「いらない、必要ない」
南「でも、理央くんカッコイイし、理央くんを好きな子たくさんいると思う……」
理央「俺に好きでもない子と付き合えっていうのかよ」
南にムッとした表情を見せる理央。南は酷いことを言ってしまったと気づかされた。

南「そういう意味じゃないの……ごめん」
必死に謝る南に理央も申し訳なさそうな表情を向けた。
その時、理央のお腹がぐう~と音を鳴らした。
理央「…………あ」
南「私お弁当あるよ! 食べる? ママの分も作るんだけどいつも作りすぎちゃうんだよね……」
えへへと苦笑いする南。理央は南が手に持っているお弁当に興味津々になっている。
理央「弁当作ってんの?」
南「うん。ママもお仕事忙しいから。お弁当は自分で準備してるんだ」
女子の一人用とは思えない大きいお弁当を開け、理央に見せる。
お弁当の中身は卵焼きやからあげ、スパゲッティに細かく刻んでピーマンと痛めたウインナー等が入っている。
南「凝ったもの入れてなくて申し訳ないんだけど……」
理央「いや、すげぇ美味そう。食いたい。食べていい?」
理央に自分用の箸を渡す南。お弁当のおかずを口に運ぶ理央。
理央「ん、美味い! こっちも食べてみてもいい?」
南「うん! いっぱい食べて!」

唐揚げをつまみ口に入れる理央。気づけばお弁当のほとんどを平らげてしまっていた。
理央「……ごめん、南の食うヤツがなくなった」
ほぼ空のお弁当箱を南に見せる理央。
南「いいの! 私そんなにお腹すいてなかったし。理央くんが美味しそうに食べてくれるのを見れて十分だから」
代わりにコレと差し出されたのは理央のポケットに入っていた、いちごみるくの飴三個だった。
理央「全然腹の足しにならないかもしれないけど……それ好きで小腹が空いたときに舐めてんだ」
飴を握りしめて理央に笑顔を向ける南。南の笑った顔を見て顔を赤くする理央。
理央「……あのさ、今日って暇? 昼飯食っちゃったし、なんか奢らせてほしいんだけど……」
南「えっと、今日は……」
制服のポケットに忍ばせておいたスケジュール帳を確認する南。今日は五時半から雑誌の取材が入っていた。
南「……ごめん、今日はお仕事が入っちゃってる。マネージャーが近くまで迎えに来るの」
理央「じゃあそこまで送ってく。心配だし……」

南(理央くん、優しいな……クラスでも他の人に対してこんな感じなのかな。隣のクラスだし、少し顔出しちゃってもいいかな…)


◯放課後(理央のクラス)

ドアを少し開けてから理央を覗き込む南。
派手な人達数人と喋っていた。

南(む、むり、声かけれない……)

理央「だから今日は無理だって。違うヤツと帰る約束してんだって」
理央はクラスの人の誘いを断りながら席を立つ。
理央「じゃあ、もう行くから。また明日な」
さっとドアの前に隠れる南に理央は気づく。頭をポンと撫でられた。
理央「ごめん、待たせた。間に合うか?」
南「うん、大丈夫……」
俯く南。理央の斜め後ろを歩く。
南(恥ずかしい、気づかれてた……)


◯靴箱

履き終えた南は理央の靴箱があるロッカーへと向かう。
ロッカーを見るなりため息を零す理央。ラブレターと思われる手紙が何枚も入っていた。

南「すごい……」
ロッカーの中を見てしまった南は声を零す。
理央はロッカーの中にある手紙を手に取るなり、近くにあったゴミ箱へ処分してしまった。
南(――そんな、せっかくもらったのに)
不安気に理央を見る南。なにか言いたげな南の視線に理央は気づいていた。
戻って上履きからローファーに履き替える理央。
理央「誰かと付き合うとか興味ないから」
南(踏み込んでほしくないことだったかも。理央くんがどうしようが私には関係ないのに……)

理央の斜め後ろを歩く南。
そのことを理央は気づいていた。
理央の背中を見ながら少し寂しい気持ちになる南。
歩いていた足を止める理央。自然と南も足を止めた。
理央「……あのさ、俺と歩くなんてイヤだよな」
南「……え?」
理央「横に並んで歩いてくれないから、イヤなのかと思って……」
南「そんなことないよ!ただ、私なんかが横を歩いたら理央くんに迷惑かからないかなと思って……」
理央「それはこっちのセリフ。俺なんかがその……ごめん、なんか夢みたいで。意識しないようにはしてるんだけど、どうにも……」
意外な理央の言葉に固まる南。
南「意識してくれてたんだ……」
理央「その、アンタがミナミだって思わないように接してはいたんだけど……」
顔を赤くして制服の袖で顔を隠すように覆う。その動作が可愛くて、南はフッと笑った。
理央「アンタ、本名も『南』だろ。その……さすがに南呼びは今更だけど抵抗があってだな……」
南「私の名字、花里(はなざと)っていうの。花里って呼んでくれていいよ」
南の苗字を聞いた理央は大きく息を吐き、「花里」と呟いた。

理央「ミナミって自分のプロフィール歳以外非公開にしてるだろ。本名知れてラッキー」

嬉しそうにニッと笑う理央に南はドキッとときめいた。
理央「……で、横歩いてくれるよな?」
南「あ、うん……」
未だ戸惑っている南に対して、理央は自分の手を差し出し南の手を握る。
いきなり手を繋がれ、また戸惑う南。
理央「俺、一応マネージャーのところまでボディーガードしてるつもりだから。花里になにかあったら困る」
南「……ありがとう」
お互い変に意識してしまい、無言でいつも着替えている公衆トイレへと着いた。
急いで女子トイレへ向かう南。制服から私服へ着替え、ウィッグを取りミナミの姿になった。
トイレから出てきてミナミの姿になると、理央は恥ずかしくて顔を逸らす。そして数歩間隔を開け、マネージャーの車が来るまで一緒に待った。

一言も会話を発することがないまま、マネージャーの白い車がミナミの元へとやってきた。
いつものように後部座席に乗り込むミナミの姿を確認した後、振り返り来た道を戻って行く理央。


〇車内

マネージャー「あの子、誰? ミナミまさかストーカーされてるの?」
ミラー越しにミナミの表情を確認しながら問いかけるマネージャー
ミナミは慌てて否定する。
ミナミ「違う! あの子は同じクラスの男の子で。私のことを唯一ミナミだって知ってる人なの」
マネージャー「同じクラスの子に味方がいてくれた方が心強いけど、あの子は喋らない?」
マネージャーの問いかけに頷くミナミ。
ミナミ「……うん、信用できる、友達」
マネージャー「それならいいんだけど、いつ、誰が見てるか分からないし、あの子、髪色や顔だちからしてなんだか目立ちそうな子だったから気を付けるのよ?」
ミナミ「うん……」

マネージャーにはなんとなく、理央がいつもファンレターをくれていた子だということは言えないミナミ。
ミナミ(変に気を遣わせるのもよくないし、黙っておこう……)

〇翌日・学校(教室)

昨日理央と昼休みに校舎裏で喋っていた女子が南の教室のドアの前に立っていた。
南(理央くんを待ってるのかな……知らないフリして通り過ぎればいいかな……)
目を合わせないように教室のドアにだけ視線を向けてドアを開けようとする南。
女子は南の腕を掴んで話しかける。

理央の女友人「なに無視して入ろうとしてんの。アンタにちょっと話があるんだけど」

声のトーンから怒っていることが分かった南。渋々女の後をついていく。
着いた場所は非常階段だった。
女はスカートのポケットからスマホを取り出し南に見せる。
画面には昨日の放課後、理央と一緒に帰っていた様子が盗撮されていた。

理央の女友人「花里さんだっけ、アンタ、理央のなに?」
女の顔を見れない南。俯きながら答える。
南「友達……です」
女友人「友人ではないでしょ!? ここ見て! 花里さん理央と手繋いじゃってるじゃん!」
何も言い返せない南に女は詰め寄る。
女友人「理央と付き合ってるんでしょ!? 私は昔から理央のことが好きだったのに……なんでアンタみたいな冴えない女……」
南(どうしよう、どこまで知ってるんだろう。トイレから出てきたところは見られてたのかな)
不安になる南の元へ、こちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
???「何してんだよ、瑞稀(みずき)
南(この声って……理央くん?)
後ろを振り向くと理央がこちらを睨みつけたような目をして立っていた。
南(理央くん怒ってる! 早くこの子の誤解を解かないと迷惑かけちゃうーー)

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