妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

逃亡のその先に

 晴れ渡った春の青空の下、色とりどりの花弁が雨のように降っている。

 王都の沿道に詰めかけた人々は口々に祝福の言葉を叫ぶ。
 花やリボンで飾り付けられた馬車の上で手を振り、歓声に応えているのは純白の花嫁衣装に身を包んだ伯爵令嬢イノーラ・ブランシュ。

 緩やかに波打つピンクローズの髪。
 くっきりとした銀色の《魔力環》が浮かぶサファイアの瞳。
 薔薇色の唇。豊かな胸。乳白色の肌。

 その類まれなる美貌により両親の寵愛を一身に受け、見る者全てを虜にしてきたイノーラは私の双子の妹。

 女神にすら愛されているらしく、イノーラは《魔力環》を持ちながら何の魔法も使えない私とは違って、希少な神聖魔法の使い手だった。

 強大な魔力に恵まれた彼女はレアノール国全土を覆う守護結界を張り、魔獣や軍事国家ウルガルドの脅威を退けている《国守りの魔女》だ。

 ウルガルド帝国はミドナ大陸最大の大国で、その圧倒的な武力で周りの国々を滅ぼし、領土を拡大してきた。

 小国レアノールがいまだ独立を保てているのはイノーラ様のおかげだと、民は口を揃える。
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