妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

とある宮廷魔女の受難

 ――話はセレスティアがブードゥーの館で働き始めた一ヶ月ほど前まで遡る。

 レアノールの王宮の西側に位置する《紅玉の宮》では緊張した面持ちの女官たちが女主人を取り囲み、朝の支度を整えていた。
 
《紅玉の宮》の主人は先月クロード王子の妃となったこの私、イノーラだ。

 私は鮮やかな黄色のドレスに身を包み、女官になされるがまま豪奢な椅子に座り、姿見に映る自分を見ている。

 結い上げられたピンクローズの髪。
《魔力環》が浮かぶ青い瞳。

 白い首元には耳飾りとお揃いの大粒のダイヤモンドを巻き、豊かな胸の双丘にきゅっとくびれた腰と、私は実に魅惑的な身体つきをしている。

 社交界の華、レアノールの宝石。

 女たちは私を羨望の眼差しで見つめ、男たちは跪いて愛を乞うた。

 若干十三歳にして最強の魔女の称号である《国守りの魔女》を得た私はまさに無敵。

 誰も彼もが私の虜。

 セレスティアの婚約者であるクロード王子も、ちょっとしなを作って声をかければ簡単に落ちた。

 セレスティアは私の結婚式後に失踪したらしい。
< 49 / 63 >

この作品をシェア

pagetop