妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
 私の振る舞いが目に余ると女官長や国王陛下から諫められたって、あいつらが私の悪口を言うのだから仕方ないでしょう!?

 ああ、全く、どいつもこいつも、苛々するったら!!

「ちょっと、痛いじゃないの! 引っ張らないで下手くそ!」
 私は髪を梳かしていた女官の手をぴしりと叩いた。

「も、申し訳ございません! お許しください!!」
 女官は深く頭を下げた。

 女官たちのびくびくおどおどした態度も苛立ちを助長させる。

 まるでいつも私の顔色を窺ってばかりいた姉を見ているようだ。
 もっとも、姉はこの鈍くさい女官よりはよほど侍女として有能だった。

 私が無言で爪を見つめれば速やかに爪を整える道具一式を揃えて私の爪を磨いたし、私が指摘するよりも早く床に跪いて私の靴の汚れを取り除き、私が望んだときにお茶を淹れた。

 姉は私に付き従う影のように気配なく私の傍に控え、どこからともなく欲しい情報を入手し、水面下で役に立ち続けた。

 姉妹としての親愛の情は欠片もない。
 でも、侍女としては実に便利で都合が良かった。

 ――あいつ、今頃どこで何してるのかしら。
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