妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る
 ロドリー王国は夏の初め。

 空は青く澄み渡り、街路樹の若葉は誇らしげに風に揺れる。
 公園では子どもたちが駆け回り、恋人たちがベンチで愛を囁き合う。

 ラスファルの街は至って平和で、道行く人々は誰も彼もが幸せそうに見えるというのに。

 私は失意のどん底にいた。
 とある富豪の館で住み込みの侍女として働いていた私は、ついさきほどその職を失い、罵倒の言葉と共に館から追い出された。

 荷物は左手に下げた鞄一つ。
 着替えの服とはした金しか入っていない財布、それからお気に入りの本が一冊。
 所持品はそれだけだ。

 旦那様は紹介状をくれなかったから、次の仕事の当てはない。
 いやまあ、あの状況で紹介状なんて書いてもらえるわけがないんだけども。

 大いに差し迫った状況である。

 これからどうやって生活していけばいいんだろう……先が見えない。真っ暗だ。

 職業斡旋所に行かないと……でも、家のない私を雇ってくれる人はいるかしら。

 肩を落とし、人でごった返した市場を歩く。

 道の左右には露店商人たちが列を作り、威勢のいい呼び込みの声があちらこちらから上がっている。
< 6 / 21 >

この作品をシェア

pagetop