過去夢の少女
☆☆☆

また、夢を見ていた。
お母さんは教室にいてみんなから無視されている。

だけどお母さんにとってはそれがすでに日常になっていて、1人で文庫本を読む時間だと決めているようだ。

『あ~、なんかこの辺臭くねぇ?』

せっかくお母さんが読書を楽しんでいるのに、教室に入ってきた河村浩司がわざとらしく大きな声で言った。

お母さんは聞こえていないふりをしているけれど、細い体がビクッと跳ねたのがわかった。
『この辺なんだけどさぁ』
河村浩司がお母さんに近づいてきて、制服のポケットに右手を突っ込んだ。

そして手を引っ張り出したと同時に、ナイロン袋に入っていた生ゴミをお母さんの頭の上にぶちまけたのだ。

途端に周囲に異臭が漂う。
『うわっ! くっせー!』
河村浩司が鼻をつまんで大笑いしている。

お母さんは文庫本から目を離し、自分の頭に右手を置いた。
その手のひらは生ゴミを掴んで床に落とした。
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