過去夢の少女
そう言われて顔を向けると、相手のネームが見えた。
プラスチックに印字された名前は河村浩司と書かれている。

河村という名字に既視感を抱いたけれど、夢の中なのでそれを思い出すことはできなかった。

『いたけど……それがなに?』
『見たんだろ』

突然耳に顔を近づいてそう言われた私は驚いて、半歩後ずさりをした。
咄嗟に耳を押さえて相手をにらみつける。

『なんんもこと?』
『とぼけんなよ。絶対に誰にも言うなよ』

そんな風に言うなんて、きっと河村浩司という生徒は商店街でよくないことをしていたんだろう。

タバコを吸っていたとか、万引したとか。
それを私が目撃したのだと勘違いしている。
こんなの相手にしてられない。

そう思って背中を向けた時、衝撃が走って気がつけば私は前のめりになって床に倒れ込んでいた。
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