過去夢の少女
「ま、いいけど。あんたにこれからやってもらいたいことがあるんだよね」
「な、なに?」

恐る恐る聞いてくるその顔は、どこか媚を打っているようにも見えた。
自分の身を守るために、強い相手に愛されようとする。

こんな状況でもそんな防衛本能が働くなんて、可愛そうな子。
「この机の中身を床にばらまいて、踏みつけて」

私が手を置いた机の持ち主は、派手グループのものだった。
河村結夏がイヤイヤと左右に首を振る。

「そんなこと……できないよ」
「本当にできないの?」
恵が横から詰め寄り、河村結夏がうつむいた。

私たちの要求を無視するということは、恥ずかしい写真をばらまかれるということだ。

「直接攻撃しろって言ってるんじゃないんだよ? ただ、物を踏みつけるだけ」

私は優しい声で囁いた。
河村結夏のような子は人を傷つけることにかなりの抵抗があるはずだ。

だけどそんなことは言っていない。
ハードルはかなり下げたはずだ。

「で、でも……」
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