過去夢の少女
☆☆☆

本館と部室棟をつなぐ渡り廊下は、今は人の姿がなかった。
放課後になるまでここは過疎状態だ。
「恵落ち着いて。大丈夫?」

教室でほとんど過呼吸になっていた恵を見つめると、恵はどうにか自分で呼吸を整えていた。

「大丈夫だよ。ごめんね迷惑かけて」
「迷惑だなんて……」

まだ顔色の悪い恵の頭を右手で引き寄せてギュッと抱きしめる。
腕の中の恵と私に体格差はほとんどないはずなのに、やけに小さく感じられた。

「追いついた?」
しばらくそのままでいると恵の呼吸が整ってきたので、そっと身を離した。

「急に河村さんに声をかけたから驚いたんだよね? でも大丈夫だから」
もとより、恵には見た夢の話はするつもりでいた。

私の過去夢を見る力について知っているのは、お母さんとそして恵のふたりだけだから。

「恵は小学校の頃私の力について話をしたことを覚えてる?」
「えっと……過去を夢に見る力だっけ?」
恵がとまどったように視線を泳がせる。

あの話を本気で受け取ってくれているとは思っていなかったけれど、やっぱり子供ながらの嘘だと思われていたみたいだ。
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