過去夢の少女
そしてようやく昇降口まできたときだった。
『ない……』
そこにあるはずの上履きが消えいて、思わず呟いた。

私の周りを生徒たちが追い抜いて外へ出ていく。
私こそ早くここから遠ざかりたいのに、それができない。
河村浩司の仕業に決まっている。

そう理解して奥歯をきつく噛み締めた。
それならいっそ本人に質問した方が早い。
そう思うけれど、これは夢の中。

体は自分が思うような行動をとらず、周囲に自分の靴がないか探し始めた。

下駄箱の上。
傘立ての中。
ゴミ箱の中。

他にはどこを探せばいいだろう。

早く帰りたかったはずなのに、探している間にどんどん校舎はオレンジ色に包み込まれていく。
部活動に精を出す掛け声や、ブラスバンド部の演奏が遠くから聞こえてくる。
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