過去夢の少女
困っているその姿はすごく滑稽で、面白い。
でもまさか男子トイレにあるなんて想像もできないんだろう。
きっと河村結夏は一生かかっても運動靴を見つけることはできないはずだ。

そう考えていたときだった。
若い女性の先生が偶然昇降口の前を通りかかった。
そして1人で困っている河村結夏を見つけて立ち止まる。

「あなた、どうかしたの?」
その声に河村結夏がビクリと体を跳ねさせて振り向いた。
その顔には恐怖の色が浮かんでいる。

今にも泣き出してしまいそうな河村結夏を心配したのか、先生が怪訝そうな顔になった。
「なにか困ったことでもあった?」
相手が新一年生だからだろう。

先生もかなり優しく話しかけている。
その様子を見るとなんだか胸の奥がムカムカしてくるようだった。

あんな風に誰かに気にかけてもらえている河村結夏を見ていることが嫌だった。
私は「行こう」と恵に声をかけて、大股で昇降口へと向かう。

そして先生へ向けてわざとらしいほどの笑顔を向けて「さようなら」と、声をかけたのだった。
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