花冠の聖女は王子に愛を歌う
「家から出て行け」と言われました
ある晴れた春の日の昼下がり。
辻馬車を乗り継ぎ、王都から四日かけて帰宅した男爵令嬢リナリア・チェルミットは、荷解きをする暇もなく養父から執務室に呼び出された。
「この家から出て行け、リナリア」
金の燭台が吊り下がった執務室で。
リナリアの養父であるベンジャミン・チェルミット男爵は、手元の書類から目を上げようともせずにそう言った。
「王子妃選考会に落ちたお前に価値はない。ノースポール孤児院で一番美しい声の持ち主だと言うから、私は平民であるお前を養女として引き取り、惜しみなく金をつぎ込んだというのに……最終どころか第二次審査で落とされるとは、とんだ期待外れだった。この役立たずめが」
――この国で一番の歌姫をウィルフレッドの妃として迎える。
国王の第二妃が産んだ第二王子ウィルフレッドが十五歳となり、成人を迎えた一年前の春の夜。
――一年後に王城で王子妃の選考会を行う。
盛大に開かれた王城の宴で、フルーベル王国の国王テオドシウスはそう宣言した。
貴族たちは大騒ぎし、結婚適齢期の娘たちに歌のレッスンをさせた。
辻馬車を乗り継ぎ、王都から四日かけて帰宅した男爵令嬢リナリア・チェルミットは、荷解きをする暇もなく養父から執務室に呼び出された。
「この家から出て行け、リナリア」
金の燭台が吊り下がった執務室で。
リナリアの養父であるベンジャミン・チェルミット男爵は、手元の書類から目を上げようともせずにそう言った。
「王子妃選考会に落ちたお前に価値はない。ノースポール孤児院で一番美しい声の持ち主だと言うから、私は平民であるお前を養女として引き取り、惜しみなく金をつぎ込んだというのに……最終どころか第二次審査で落とされるとは、とんだ期待外れだった。この役立たずめが」
――この国で一番の歌姫をウィルフレッドの妃として迎える。
国王の第二妃が産んだ第二王子ウィルフレッドが十五歳となり、成人を迎えた一年前の春の夜。
――一年後に王城で王子妃の選考会を行う。
盛大に開かれた王城の宴で、フルーベル王国の国王テオドシウスはそう宣言した。
貴族たちは大騒ぎし、結婚適齢期の娘たちに歌のレッスンをさせた。
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