花冠の聖女は王子に愛を歌う
「いや、だから仮定の話だよ、仮定の。おれは公的には存在しねえ。家も財産も戸籍もない奴と結婚できるわけねえだろ? 残念だけど、めちゃくちゃ残念だし悔しいけど、お前のことは他の男に譲るよ。おれみたいに口が悪くなくて、ちゃんと教育を受けてて、たっぷり財産があって、どんな困難からも守ってくれるような――そんな良い男と結婚しろよ? 間違ってもお前を泣かせるようなロクデナシと結婚するなよ?」
 アルルがよくしていたように、ぽんぽん、とイスカはリナリアの肩を叩いた。

「ちょっと待ってください、譲るってなんですか! なんで譲っちゃうんですか、私は――」

 胸の中で何かが弾けた。
 皆に祝福されて結婚式場に立つ自分と、自分の傍に立つ見知らぬ男性を想像したが、どんなに良い男性だろうと駄目だった。無理だった。

(どんなに格好良くてもお金持ちでも紳士でも、イスカ様じゃなきゃ嫌だ――)

「――私もイスカ様と結婚したいです!!」

 リナリアは己の肩を叩くイスカの手首を掴んで叫んだ。

「…………は?」
 顔を真っ赤に染めているリナリアを見て、イスカは面喰ったように瞬きした。
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