花冠の聖女は王子に愛を歌う
「結婚って……え? 嘘だろ? お前、ウィルフレッドの妃になるために頑張ってたんだろ?」
「あれは養父に命じられて頑張っていただけです! ウィルフレッド様のことは好きでも嫌いでもありませんでした! 冷静に考えてみてください! 顔も知らず話したこともない相手に特別な感情を抱くことは無理でしょう!?」
「ま、まあそう……か?」
 勢いに押され、イスカは曖昧な返事をした。

「いやでも、おれは無一文だぞ? この服も靴も全部借り物だぞ?」

 どうやらイスカは赤い宝石のついた腕輪のことを忘れているらしい。売れば大金が手に入るはずだが、わざわざ指摘するつもりはなかった。

「大丈夫です! 私だってほぼ無一文なんですから、イスカ様が無一文でも問題ありません!」
「いや、問題しかねえよ。生活どうすんだよ。いきなり詰んでるじゃねえか――」

「戸籍がなくて結婚できなくても良いです! イスカ様のお傍に居られたら、ただそれだけでいいんです!!」

 手首から手のひらへと握る個所を変え、もう一方の手も使ってイスカの両手を掴み、必死で訴える。
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