花冠の聖女は王子に愛を歌う
「…………」
 イスカは口を閉じた。
 顔をわずかに赤くして、嬉しそうな――それでいて、どこか寂しそうな笑顔を浮かべる。

(あ)
 悟る。口では結婚したいと言いつつも、イスカが本気で自分と共にいるつもりはないことを。

 彼は一人で兄のいる王宮に行ってしまうことを。
 そして、そのまま戻ってこないつもりであることを――

「……ありがとう。本当に嬉しかった」
 イスカは再びリナリアを抱きしめた。

「長いこと地下牢に閉じ込められた挙句、最後には魔物にされた酷い人生だったけど。お前と会えたことだけは神様に礼を言いたい気分だよ。おれにとってお前は闇夜を照らす光だった」

 耳元で囁かれ、彼の腕の中でリナリアは目を閉じた。
 泣くなと言われたばかりなのに、涙の衝動が込み上げてくるのを、奥歯を噛み締めて耐える。
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