花冠の聖女は王子に愛を歌う
「幸せになれよ、リナリア。おれがいなくなっても、どうか元気で。笑っててくれ」

 イスカの指が愛おしげに、優しくリナリアの髪を撫でる。
 イスカの身体は温かい。
 ずっとこのまま彼の腕の中にいたい、時が止まれば良いとすら思う。

 だが、こうして触れ合っているいまでさえ、イスカの頭を占めているのは自分ではない。

 双子の兄の問題が解決しない限り、イスカは恋愛などとてもできる心理状態ではないのだ。

(無理よ。イスカ様がいなくなったら笑えないわ。幸せになんてなれるわけない。他の誰かなんていらない、私が真実欲しいのはイスカ様だけなのに――)

 こんなにも胸が痛いのは、恋しくて堪らないから。
 彼との別れを考えると、辛くて、悲しくて、気が狂いそうだ。
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