花冠の聖女は王子に愛を歌う
(もしかして――)

 脳裏に閃くものがあった。
 さきほどリナリアは歌いながら花瓶の花に『咲け』と強く念じた。

 他人に命じられて喜ぶ人間はいない。
 むしろ『なんだコイツ、偉そうに命令しやがって』と苛立ち、反抗心を抱くだけだろう。

(それは植物も同じなのではないかしら)

 本当に『咲いて欲しい』と思うのなら、心を込めて、真摯に『お願い』するべきだったのではないだろうか。相手が口も利けない植物だからと侮って、傲慢に命令するなど、とても聖女のやることではない。

 リナリアは子守歌を歌いながら、テーブルの上にある小さな花瓶を見つめた。

 花瓶には三本の花が活けられている。
 そのうちの一輪、黄色い花はまだ蕾だった。

(お願い。咲いて。どうか、お願い……!!)

 ――そして、奇跡は起きた。

 黄色の蕾がほころび、すっかり開いたのだ。
 同時、リナリアの左手の甲がほのかに熱を帯びた。

 見れば、左手の甲に六枚の花びらを持った花の紋章がくっきりと浮かび上がり、神秘的な金色の光を放っているではないか。

 これは《光の花》――《光の樹》が一年に一度だけ咲かせる奇跡の花と同じだった。
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