花冠の聖女は王子に愛を歌う
「これは遠距離交信を可能とする魔道具です。 魔力のない人間にとってはただの綺麗な箱でしかありませんが、お兄様のように魔法に長けた魔導師が使うとこの通り。遥か彼方、《魔導の塔》にいるお父様とも交信ができるというわけですわ!」
 エルザは豊かな胸を突き出すようにして胸を張った。

(お父様って――宮廷魔導師団長ジョシュア様!?)

《初めまして、イスカ王子。リナリア。音声のみで失礼する》

 立方体から低い男性の声が聞こえてきて、リナリアはぴっと背筋を伸ばした。
 反射的に背筋を伸ばしてしまうほど、男性の声には威厳があった。

「は、初めましてジョシュア様! リナリアと申しますっ」
 ジョシュアには見えていないだろうが、リナリアは深く頭を下げた。

「イスカだ」
 つられたようにイスカも挨拶した。

《宮廷魔導師団長ジョシュア・バークレインだ。エルザから大方の話を聞いた。イスカ王子はバークレインの助力を求めているそうだな》

「ああ。このままではセレンは遠からず殺されるだろう。だから――」

《違うな》
 ジョシュアがイスカの台詞を遮った。

《『遠からず』ではない。エルザがいなければ、とうにセレン王子は死んでいる》
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