花冠の聖女は王子に愛を歌う
《落ち着け。『エルザがいなければ』と言っただろう。君の失踪によるショックで寝込んではいるが、セレン王子は存命だ。幸いなことに、エルザはセレン王子に投与されていた薬を全て覚えていた。どうか王子を助けてくれとエルザに懇願された私は四方八方手を尽くし、該当する薬を探し出した。エルザはその薬を王子に与えていたんだ》
 イスカは呆然とエルザを見た。エルザが頷く。

「言いましたでしょう、『セレン様の女官を務めている三人とはいまだ密に連絡を取り合っている』と。何も楽しく文通しているわけではありませんのよ。セレン様の容態を聞きつつ、裏から手を回して薬を送っていましたの」
「…………そうか……」
 イスカは長々と息を吐き出してからソファに腰を下ろした。片手で額を押さえ、感情のこもった声で言う。

「ありがとう。本当に……」

《安心するのはまだ早い。薬を断っただけでは死なぬと見たらしく、焦れた何者かは刺客を送ってセレン王子を殺そうとした》

 イスカは目を剥き、リナリアは手で口を覆った。そうしなければ悲鳴を上げていた。

《護衛役として張り付けていた部下が返り討ちにしたが、敵が諦めたとは思えない。恐らくこれからもセレン王子は襲撃を受けるだろう》

「そんな……どうすれば良いのですか? どうかお知恵をお貸しください、ジョシュア様」
 縋るように言うと、ジョシュアは少しの間を置いて質問してきた。
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