花冠の聖女は王子に愛を歌う
 やっぱり無理かも、とは口が裂けても言えない雰囲気だ。
 もし『光の樹』を蘇らせることができなければイスカは失望し、リナリアから離れて行くだろう。

(ああああ。イスカ様のためにもセレン様のためにも頑張らなきゃ!! ほんとに!! ほんとに!!)
 頭を抱えていると。

《頑張るのはリナリアだけではない。君もだ、イスカ王子。イザークにセレン王子を誘拐するよう頼んだらしいな?》

「……ああ」
 二人のやり取りを聞いて、リナリアは頭から手を離した。

《仮に誘拐が成功したとして、その後どうするつもりだったのだ? 一国の王子が消えたとなれば大騒ぎになるぞ。生死問わず、セレン王子が見つかるまで王宮は捜索を止めないだろう。まさか自分が身代わりに死ぬつもりだったとでも言うのか?》

「……もちろん、それは本当に最後の手段だが。それ以外にどうしようもないなら、それでも良いと思っていた」
「そんな――!」
 リナリアは声を上げそうになったが、イスカがかぶりを振って止めた。

「だが、いまは違う。そんなことしたってあいつは喜ばねえし、おれが死ねば泣く奴がいるとわかったから」
 イスカはリナリアを見て微笑み、再び立方体を見た。
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