花冠の聖女は王子に愛を歌う
 信じがたいことに、アルルは敵意の欠片もない、非常に友好的な魔物なのである。
 この日もアルルは口に一輪の花を咥えていた。

 茂みから出てきた身体のあちこちに葉っぱや草がついているのは、リナリアの歌声を聞き、急いで駆けつけてきた証拠だ。

「!!」
 リナリアはアルルの登場に歓喜して歌を止めようと思った。
 しかし、茂みの前で二本足で立ち、傾聴の姿勢を取っているアルルの姿を見て、そのまま最後まで歌いきることにした。

 やがて歌が終わると、アルルが駆け寄ってきた。
 つぶらな蒼い瞳でリナリアを見上げ、口に咥えていた花を両手で――正確には両前足で――持ち、どうぞ、というように背伸びして差し出してくる。

(かーわーいーいー!!)

 一週間ぶりに見るアルルの姿は相変わらず悶えたくなるほどに可愛かった。
 人間に花を贈る魔物など、世界中を探してもアルルしかいないのではないだろうか。
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