花冠の聖女は王子に愛を歌う

病弱な王子様

 あれから三日が経った深夜、一時過ぎ。
 リナリアたちは地面に描かれた長距離転移用の魔法陣を囲むようにして、公爵邸の庭に集まっていた。 

 この複雑極まりない魔法陣は出立前にイザークが描いたもの。

 王宮で何らかのトラブルが起きなければ、もうすぐセレンを連れてイザークが現れる。

 この三日間、エルザにみっちりと演技指導され、急遽集められた講師陣からは礼儀作法や身を守るための魔法や帝王学を学び――とにかく様々な教育を施された結果、ほとんど屍と化していたイスカは誰よりも真剣な表情で魔法陣を見ている。

 イスカの話によると、セレンとはもう二年以上も会っていないそうだ。魔物にされた期間を除いたとしても、一年以上。

 実の兄弟だというのに、気軽に会うことすらできない。
 それはどれほど辛く悲しいことだろう。

 不意に、淡く金色に輝いていた魔法陣が強烈な光を放ち始めた。

「!!」
 誰もが食い入るように魔法陣の変化を見つめた。

 魔法陣は光の円柱を作り出し、円柱の中に人影が現れる。

 目が眩むほどの強い光を放った直後、光の円柱が消えた。

 全ての輝きを失った魔法陣の上に立っているのはイザークと、ぐったりした様子でイザークに背負われた美青年。
< 120 / 308 >

この作品をシェア

pagetop