花冠の聖女は王子に愛を歌う
 セレンの部屋は一階、物置として使用されていた部屋を片付けて作られた。
 病弱な彼が階段を上り下りするのは大変だろうという配慮だ。

 元が物置部屋とはわからぬほど、セレンの部屋は清潔に整えられていた。
 豪奢な客室に比べると壁紙は地味ではあるが、家具は品が良く、落ち着いた空間になっている。

「……イスカとエルザは久しぶりだね。ヴィネッタとリナリアは初めまして。私はセレン・フレーナ・フルーベル……こんな状態での挨拶で失礼」

 ベッドに寝転び、胸元まで毛布をかけられたセレンは微苦笑した。

 暗い夜の庭ではよくわからなかったが、こうして改めて明かりの下で見ると、人形のように整ったその顔は青白く、生気がない。

 きちんと薬を飲んでいる状態でこれなのだ。もしも薬を絶たれていたら――ぞっとして、リナリアはその先を考えないようにした。

「まさか王宮を出ることになるなんて……イザークに話を聞いたときは驚いたよ。私のために力を尽くしてくれてありがとう。本当に、なんと礼を言えば良いのか……特にイザークは大変だっただろう」

「はい。お礼は弾んでください」
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