花冠の聖女は王子に愛を歌う
「そうしたいのはやまやまだけど、私に差し出せるものなんて何も……」
 セレンはイスカと同じサファイアの目を伏せた。

「じゃあお礼はあなた自身ということで、エルザを嫁にしてやってください」
「はあっ!? ちょっと、何を言い出すんですかお兄様!!」
 顔を真っ赤にし、慌てふためいてエルザが兄の手を引っ張る。

 エルザがセレンを愛しているのはリナリアも気づいていた。というより、気づかないほうがどうかしている。

「ふふ。駄目だよ、エルザには幸せになってほしいからね」
 単なる冗談だと思ったらしく、セレンは笑って受け流した。

「………」
 あからさまに落ち込んだエルザを見てヴィネッタは苦笑し、イザークは慰めるように妹の肩を叩いた。

 バークレイン一家のやり取りに気づくことなく、セレンはリナリアの左手を見ている。

「ご覧になられますか?」
 リナリアはベッドに近づき、左手を差し出した。
 
「ありがとう。綺麗だね。これが《光の花》……文献では見たことがあるけれど、実物は初めて見たよ。《花冠の聖女》は植物と交信できる力があるというのは本当?」
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