花冠の聖女は王子に愛を歌う
「ありがとう」
 リナリアは微笑んで花を受け取った。

 特別な花ではない。
 どこにでも生えている雑草で、ここまでに来る道中でも何度か見かけた。

 それでも、自分に贈られたこの花にはかけがえのない喜びと価値があった。
 花を渡し終えた後も、アルルは蒼穹のような青い目で、じっとリナリアを見つめている。

 どうして一週間も来なかったの?
 そう言っているような気がして、リナリアは説明を始めた。

「ごめんね、王都の選考会に行ってたのよ。一年前に、王様がこの国で一番歌が上手い女性を第二王子ウィルフレッド様のお妃様にすると宣言してお触れを出したの。野心に燃える貴族や地方領主たちは大騒ぎで、皆が張り切って歌姫を立てたわ。孤児だった私はチェルミット男爵に素質を見出され、一年前からこの森で歌の練習をしていたというわけ。でも、王子妃になる夢は叶わなかったわ。私はメイドに毒を飲まされてしまったの――ああ、大丈夫。生命にかかわるようなものではなかったから」

 アルルが身体を縮めて心配そうな顔をした――ような気がした――ため、リナリアは慌てて言った。
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