花冠の聖女は王子に愛を歌う
「あの、セレン様。つかぬことをお伺いしますが、お好きな相手とかおられたりしますか?」
 いい加減、じれったくなってリナリアは口を開いた。

「え?」
「何を言いだすんですの!?」
 エルザはリナリアの腕を掴み、引っ張った。

「特にはいないよ。王子というのは肩書きだけで、王宮でもほとんど存在を忘れ去られ、いつ死ぬかもわからない私に好かれても困るだけだろうし……」
「セレン様。無事フローラ様の協力を得ることができれば、セレン様はすっかり健康になることでしょう」
「……健康……」
 セレンは未知の単語であるかのように呟いた。

「健康になったら、セレン様はどうしたいですか? 国王になりたいですか?」
「……いや。生まれた順番は私のほうが先だけど、国王にはきちんと教育を受けたウィルフレッドのほうが相応しいと思う。私は……困ったな。一日一日を生き延びるのが精いっぱいだったせいで、自分が将来何をしたいかなど考えたことがなかった。でも……そうだな。私は国民の血税によって生かされてきた。恩を返すためにも、国民のために何かしたい。医療院を作ったり、孤児院を作ったり……王子としての責務が果たせるよう頑張りたいな」
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