花冠の聖女は王子に愛を歌う
 黄色のドレスに身を包み、いつも以上に着飾った麗しの姫君を見た瞬間、リナリアは現実を思い知った。

 侍女たちの手によって少しは美しくなったと思ったが、やはり本物の美人の輝きには敵わない。

 彼女が大輪の薔薇なら、自分は薔薇に添えられたカスミソウ――いや、カスミソウにもなれそうにない。せいぜい道端に咲くタンポポだろう。

「どうしたんですの、壁に手をついて項垂れて。緊張で気分が悪くなったのかしら?」
 エルザが首を傾げた。その耳元で、黄玉《おうぎょく》がきらりと輝く。

「いえ。改めて現実を思い知っていたところです……私は自分の思い上がりを恥じます……」
「何を訳の分からないことを言っているの。行きますわよ、陛下をお待たせするわけにはいきません。あなたに全てかかっているのですから、しっかりなさい」
「……はい」
 出発前、リナリアの手を弱々しく握ったセレンの手の感触を思い出す。
 当時、セレンは体調を崩して熱を出していたため、その手は温かった。

 ――気を付けて。どうか、イスカのことをよろしく。

 熱に潤んだサファイアの瞳には不安と心配が同居していた。
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