花冠の聖女は王子に愛を歌う
(声が潰れても良いわ。二度と歌えなくなっても、聖女でなくなっても構わない。私はあなたが再び大地に力強く根を張り、明るい光の下で豊かに枝葉を広げる姿が見たい。イスカ様とこれからも共に生きていきたい。自分の足で元気に駆けるセレン様の姿を見たい。イスカ様とセレン様が、この先生まれるかもしれない未来の王家の双子が。誰憚らず笑い合う姿を夢に見てしまったから、この夢だけは譲れない。諦めることなんてできないの――ああ、どうか、マナリス様。私の願いをお聞き届けください。《光の樹》よ、どうか私の声に応えてほしい)

 リナリアは歌った。太陽の下で笑い合う双子の王子の夢を見ながら、女神と《光の樹》に祈りながら、歌い続けた。

 どれくらい時間が経ったのだろう。
 どんな曲を何曲歌ったのかすらわからない。

 ――ぽんぽん、と。
 不意に肩を叩かれ、リナリアの意識は現実へと引き戻された。

 深い集中状態にあり、自分がいまどこで何をしていたのかすら忘れていたリナリアは夢から覚めたような心地で瞬きした。
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