花冠の聖女は王子に愛を歌う

大事な友達

《花冠の聖女》が《光の樹》を芽吹かせた。
 その吉報は王宮中を駆け巡り、たちまちリナリアは時の人となった。

《光の樹》は芽吹いたばかりで、かつての巨木の姿を取り戻すまでは時間がかかりそうだが、それでも王宮は歓喜に沸いた。
 大勢の人間が入れ替わり立ち替わり中庭を訪れ、黄金の光を放つ神秘の芽を見て感嘆のため息を漏らした。

 偉業を成し遂げたリナリアは大げさなまでに褒め称えられた。この分だと、明日にはリナリアの名前が城下に暮らす人々の口の端に上り、やがて国中に広がるに違いない。

 きっとこれから救国の聖女として持ち上げられることになるぞ、大変だな、とイスカは笑っていた。

 労をねぎらわれ、《光の樹》が芽吹いた宴を兼ねた晩餐会に呼ばれたリナリアは豪華絢爛な食堂で国王一家と食卓を囲んだ。

 公爵邸でテーブルマナーを叩き込まれたイスカはセレンとして振る舞い、ウィルフレッドやテオドシウスとはもちろん、ロアンヌとも笑顔で会話していた。

 リナリアは見ていて感心した。

 自分を魔物に変え、兄を殺そうとした疑いのある相手と朗らかに笑い合うなど、リナリアにはとても無理だ。
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