花冠の聖女は王子に愛を歌う
 ウサギ程度の大きさしかないアルルより人間のほうが食べ応えがあると思われたらしく、アルルを無視してリナリアの左腕に魔物のツタが巻き付く。

 魔物がツタに力を込め、リナリアを一本釣りにされた魚のように天高く巻き上げるよりも前に。

 素早く二本足で立ち上がったアルルが両前足を魔物に向かって突き出した。

 肉球のついた可愛らしい両前足の前に、金色に輝く魔法陣が現れる。
 間髪入れずに、光と熱を伴う衝撃波が放たれた。

 放たれた光線 (ビーム)は魔物を直撃し、巨体の大半を消し飛ばした。

 魔法の発動によって生じた熱風がリナリアの長い髪を揺らし、前髪がふわりと浮き上げる。

 元よりだいぶ小さくなった魔物の死骸が音を立てて地面に倒れた。
 リナリアの左腕に巻き付いていたツタもまた力を失い、地面に落ちる。
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