花冠の聖女は王子に愛を歌う
 太陽は蒼穹に燦然と輝いている。
 しかし、外苑の地面はまだ濡れており、そこかしこに水たまりがあった。

 場所は昨日クロエを見かけた雑木林。

 リナリアとクロエは、白い花が添えられた石の前で並んで立っていた。
 一晩中雨に打たれた花は泥で汚れ、花弁が千切れてしまっている。

「私が何か言いたいのか、わかるわよね」

「……見ていたのですね」
 クロエは枯草色の瞳で自らが置いた石と花を見下ろし、ぽつりと呟いた。
 髪で顔を半分隠した彼女はいつも憂鬱そうだが、いまはいつにもまして顔を覆う陰りが濃い。
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