花冠の聖女は王子に愛を歌う
「待っ――」

 クロエの手からナイフを取り上げるのは不可能。
 リナリアは刃物に怯えて距離を取ってしまった。
 いまさら何をしても手遅れだ。

 一秒後にはナイフの切先がクロエの胸に突き刺さるだろう。致命的な深度まで。

(神様――)

 ――祈っても、神様が降臨したりはしなかったが。

 代わりに、リナリアの視界を貫いたのは閃光。

 斜め後ろから突如として閃いた一条の光が、正確無比にナイフを撃ち抜いた。

 勢いに弾かれ、ナイフはクロエの手からすっぽ抜けて宙を舞う。
 即座にクロエはナイフを追いかけ、しゃがんで拾い上げようとした。
 しかし、リナリアはクロエより早くナイフに駆け寄り、全力で蹴り飛ばした。
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