花冠の聖女は王子に愛を歌う
 最低限の設備しかない辻馬車の座席のクッションは硬く、長時間揺られていると尻が痛くなる。
 リナリアはさっきから何度も座り直し、痛みを軽減しようと苦心していた。

 開け放たれた馬車の窓からは田畑と山稜が見える。
 この速度で進めば、王都まではあと一時間といったところか。

 王都で一泊して、それからまた辻馬車に乗り、二時間ほど走ればようやく目的地であるミストロークの街――バークレイン公爵が治める街に着く。

 ミストロークは大きな街だ。

 エルザが口利きしてくれれば働き口は簡単に見つかるだろう。
 仮にエルザに門前払いされたとしても、働き口はあるはずだ。多分。

「ねえお母さん、まだ王都に着かないの? おしり痛いよー、降りたいよー」
 三つ並んだ席の最も右端に座る男の子が母親の服の袖を引っ張った。
 子どもの服には何度も修繕した跡があり、母親が纏う地味なワンピースは色褪せている。

 親子が貧しいのは一目瞭然だった。
 もっとも、乗り合った乗客の中で上等な服を纏っている者など一人もいない。
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