花冠の聖女は王子に愛を歌う
「お疲れ様でした……イスカ様だって好きでやったわけではありませんよね。全てはデイジーを盲信していたウィルフレッド様のためにやったことなのに」

 クロエから話を聞いた後、イスカは秘密裏にウィルフレッドを呼び出して伝えた。デイジーはこれこれこういう人間だから、愛するに値しない、と。

 すると、ウィルフレッドは怒った。
 デイジーは誰よりも美しく、誰よりも優しく、慈愛に満ちた素晴らしい女性だ。
 そもそも、いまの話を聞く限り、犯罪を犯したのは彼女の周りの人間であって、彼女は何もしていないではないか。

 過去の罪を暴かれ、牢に入れられた犯罪者たちと同じように、ウィルフレッドはデイジーを信じていた。それについては何も言えない。リナリアだって、デイジーは人格者であると信じ切ってしまっていたのだから。

 多くの人間を振り回し、過ちを犯させ、人一人を間接的に殺しておいて、デイジーはこれからものうのうと王宮で暮らし、半年後にはウィルフレッドの妃となる。

 デイジーが王妃になれば、国民にとってもウィルフレッドにとっても不幸だ。
 デイジーがセレンの義理の妹になるなど許しがたい。
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