花冠の聖女は王子に愛を歌う
 そこでイスカは国王に直談判し、ひと芝居打つことにした。
 大貴族たちを巻き込んだ計画は大成功だった。デイジーの本性を知ったウィルフレッドはデイジーを見限り、婚約破棄を申し出た。

 ウィルフレッドは「目を覚ませてくれてありがとう。兄上は僕の恩人だ」とイスカに礼を述べたらしい。

 疑いの晴れたロアンヌは自由の身となり、婚約破棄されたデイジーは王宮からの速やかな退去を命じられた。

 これからアーカムは針の筵に座るような地獄を味わうことになるだろう。
 何しろあれだけの目撃者がいるのだ。しかも目撃者の半数以上が力ある大貴族たち。醜聞はあっという間に広がり、フォニス家は爪弾きにされ、社交界での居場所を失うのが目に見えている。

「まあウィルフレッドのためでもあったけどさ。自分のためでもあるよ。真の黒幕が無罪じゃ腹の虫がおさまらねえよ。アンバーがいなきゃ、おれはお前を失っていたかもしれなかったんだぞ?」
 イスカはティーカップを置いて手を伸ばし、リナリアの頬に触れた。どきりと胸が鳴る。
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