花冠の聖女は王子に愛を歌う
 そんなことを考えながら、イスカと一緒に部屋を出ようとしたときだった。

「父上」
 イスカは何かを決意したような表情で、扉の前からテオドシウスの前へと移動した。
 テオドシウスは何も言わず、目の前にいる息子を見つめた。

「……今日は話せて良かったです。父上はセレンを見捨てることなく助けてくれた。その事実だけで、あなたに抱いていた負の感情は全て消えました」
 イスカは姿勢を正し、頭を下げた。

「セレンを……おれの弟を助けてくださり、本当にありがとうございました」

 テオドシウスはこみ上げる感情を堪えるように、唇を引き結んだ。

「……礼を言うのか。余は十七年もお前を牢に閉じ込めたのだぞ」
「それはおれを疎んじていたからではなく、そうする他なかったからでしょう。あなたは確かにおれを愛してくれていた。ですから、もう良いのです」
 イスカはすっきりとした表情で笑った。
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