花冠の聖女は王子に愛を歌う
「何か怒ってねえか? 口調がいつもより他人行儀で、しかも刺々しいような」
「はい。お察しの通り怒ってます」
 リナリアはソファの座面に手をつき、軽く上体を捻ってアルカに向けた。

「なんでさっき、ウィルフレッド様の妃になれと言われたときに抗議してくれなかったのですか。『ちょっと待った、リナリアはおれのものだ!!』と格好良く宣言してくださらなかったのですか。救いの女神だとか最高の女だとか惚れ直したとか言っといて、土壇場で怖気づいてウィルフレッド様に譲るとか、酷すぎませんか? 私は弄ばれたのですか?」
「弄――」
 強い言葉にアルカは一瞬、絶句した後で、すぐに猛然と抗議を始めた。

「いや、だって、しょうがねえだろ!? おれの立場になって考えてみろよ! ウィルフレッドの妃になればお前は将来王妃になれるんだぞ!? 王妃になって王宮で贅沢三昧するよりおれの妻になったほうが幸せだ! なんて、言えるかよ!! どんだけおれは自信家なんだよ!? おれには金も地位もねえんだぞ!?」
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