花冠の聖女は王子に愛を歌う
 しばらくして三階のバルコニーの前に着き、リナリアは驚いた。

 王宮前広場は人で埋め尽くされていた。まるで国中の人々が一か所に集まっているかのよう。

「凄い人ですね。建国祭はこんなに多くの人が集まるものなのですか?」

 目を白黒させながら、黒と金のほぼ二色で構成された礼服を着ているウィルフレッドに質問すると、彼は笑って首を振った。

「いいや、去年も、おととしも、これほど多くの人はいなかったよ。みんな噂を聞いて、リナリアの歌を聞きに来たんだろう。病床に伏していた第一王子を回復させた奇跡の歌。《光の樹》を蘇らせた女神の歌――みんなが君の歌声を期待して、君の登場を待ち望んでいる」
「……そんなに期待されているのですね……」
 リナリアは俯いた。
 歌を目的としてわざわざこの場に集まってくれた国民たちには申し訳ないが、これからリナリアは大騒動を起こす。

 その結果次第では、たとえ国王の命令だろうと、万人に非難されようと、歌わないと決めたのだ。
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